9.静寂の森


 その場所には木の群集が巨大な影を落としていた。

陽の光がまるで届かない未開の地。
辿り着くまでの間、私はおよそ久しぶりに湧き上がる好奇心に少なからず酔っていた。
しかしいざ森と対峙した時、想像以上の薄気味悪さに
私の心は引き返すすんでのところまで折れかかっていた。
右を見ても左を見ても森は果てしなく続き、
そればかりか森を形成する木のひとつひとつが大きい為、
近くに立った私には、世界を覆う巨大な黒い生き物のように思えた。
森の中からは鳥や虫などの生物が生息している気配はまるで無く、
石を投げてみたり、声を発したりしても、ただ静寂を返してくるだけだった。

私は手を組み、頭を抱えといった行為を繰り返しながらその場を行き来し考えた。
ただ決断を迫るものは何も無いので時が流れるだけだった。
そして長い葛藤の末、ようやく自らに答えを出した。
一時の好奇心に身を委ね、なかば投槍とも言えるかたちで森へと入る決意をしたのだ。
戻ったとしてもまた暇を持て余すだけなのを私は知っている。
こうでもしなければ、この先二度とこの場所を訪れることはないと思ったからだ。

恐怖や不安など頭の中をあらゆる悲観的妄想が巡るなか、
私はそれに反し森への一歩を踏み出した。



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