7.ジレンマ
長い間ひとつの地に腰を据えていると、
例えそこが如何なる秘境や異境、絶景と称される場所であったとしても
やがては日常の中の背景として埋没してしまう。
そして今の私にとって、この世界がまさしくそれに当て嵌まるのではないだろうか。
この世界には時間という概念が存在しない。
陽が沈むことはなく、目覚めた時が朝であり、眠りに就いた時が夜であった。
故にどれだけの時間が流れたのかを知るすべは無いが、
私にはこれまで一生分を過ごしたかような感覚さえある。
此処には望んだものが全て在る――と言っても過言ではないだろう。
願えば叶い、願わずば無に帰するだけだ。
しかし全てが正直で純粋な、言うなれば理想郷のようなこの地にさえ
私は暇を持て余すようになっていた。
そればかりか、遥か遠い過去に居た場所。
あのモノクロームの世界に一種の里心が芽生え始めていたのだ。
そしてその想いは時を得るごとに強まる一方である。
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