BR>


 機関車は怒号のような唸りを上げ、二度三度高らかに汽笛を鳴らし駅へと近づいてくる。
やがて徐々に減速をはじめ、まもなくわたしのまえで停車した。
機関車は7両編成で、手入れの行き届いた真っ黒な車体をしている。
最後尾の車両に乗り込んだわたしは、まず外観同様美しい車内に感嘆した。
―――が、わたしには車両に感心する以前にしなければならないことがあった。
それは他でもない、人と出会うことだ。
当然、機関車のなかには乗客が居るに違いない。
たとえ乗客が居なくとも運転手や車掌はいるはずだ。
そう確信していたからである。

 わたしはまず自分以外のモノの存在を確認したかった。
そしてここが何処なのかを知りたかったのだ。
そんなことを考えているうちに機関車は再び汽笛を響かせ、ゆっくりとその大きな車体を動かせはじめた。

 ガタンゴトン。ガタンゴトン。

   心地よく揺れながら、曲がり道も分かれ道も無いただひたすらまっすぐな線路の上を
機関車は快調に速度を上げていく。
外に見えるのは、いまだ変わらず金色の稲穂畑だ。
 しかしわたしは穏やかな景色をゆっくりと拝む間もなく、他の乗客の姿を探しはじめた。
 最後尾の車両に誰も居ないことを確認したわたしは、前の車両へと歩を進めていった。
車両間のドアを開ける度に期待を込めた眼差しで客席を見渡したが、
前から2両目の車両に辿り着くときまでに誰かとすれ違うことはなかった。
 残すは最前列の機関室だけだ。
わたしは再び言い知れぬ不安に駆られたが、意を決して機関室のドアを開けた。

 するとそこには、スコップを持った大柄の男がひとり、忙しく罐に石炭をくべていた。



to be continued...



previous<<